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神戸クラシック物語
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■ 第四回:『なぜ音楽は私たちに必要なのでしょうか?』 

 貴志康一は未完の自伝的小説「恋」のなかで主人公「茂」を通じて次のように父に問いかけています。
 『お父さん・・・(父)うん
 音楽っていいものですね・・・(父)うん
 一体音楽や絵や詩から受ける気持ちは、どうしてあんなに美しいんでせう
 あれは人間に取り最も貴いものでせうか、又唯の楽しみか夢に過ぎないものでせうか。』
 小説の中では、『父は何も答えず静かにほほえんだ。・・・』とあります。
 答えはありませんでした。
 ただ、最高の演奏に出会った(恋した?)後の貴志の人生は、音楽に触れることのすばらしさや幸福感を多くの人に届けようとする熱意と行動力に満ちています。
 17歳の貴志が神戸港から旅立ったとき、船上から父に手紙を綴っています。
「・・・・大阪湾を出るとき自分を静かにかへり見ました。世界中で一番幸福な東洋の赤い血のわきかへる若者の僕のすべき事をも考へました・・・僕の全力をこの使命の為に尽す事をお父さんにちかひます。世界の人は皆僕を待っていてくれるのです」

 「なぜ音楽は私たちに必要なのでしょうか?」
 常に問いかけられる問題ですが、貴志がもし生きていたら『音楽(芸術)は人間にとって最も貴いものだから』と答えてくれるかもしれません。

 音楽(芸術)は私たちに安らぎをもたらし、私たちを勇気付け、励まし、国境や人種を超えて多様な人々の心を結び付けてくれます。音楽(芸術)が貴ばれる社会であることは、私たちが人間的に生きていくことができる社会、誰もが主体的に生きることができるユニバーサルな社会、そして何よりも平和な社会であることの証しなのだと思います。
 私たちが音楽活動する神戸をはじめとする阪神間には、かつて多くの芸術家(音楽家)を輩出した豊かな文化の土壌があります。自由でハイセンスな阪神間モダニズムという都市文化の精神は後進の多くの芸術家、文化人に受け継がれ、言わば文化の地下水脈としてこれからも私たちに影響し続けていくと思います。
(文中敬称略しました。)

(終わり)

 

参照文献:
「阪神間モダニズム」(阪神間モダニズム展実行委員会編著)における小野高裕氏
「音楽家の誕生◆貴志康一」「ロシア人音楽家たち」
「日本人の足跡」産経新聞平成13年9月17日
甲南学園貴志康一記念室発行の資料 ほか多数

 

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