■ シューベルト作曲 弦楽四重奏曲第14番ニ短調「死と乙女」D.810
演奏:ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団
紹介:神戸市室内合奏団 ヴァイオリニスト 谷口 朋子
シューベルトの弦楽四重奏曲全15曲、6枚シリーズの中の一枚。ウエストミンスター・レーベル復刻版。録音は1950年と古いが当時のオリジナル・アナログ音源からダイレクトにデジタル・トランスファーされたマスターを使用してのCD化で音は悪くない。ウィーン交響楽団のメンバーで結成された、この四重奏団の演奏は優雅さ、品性、愛らしさに溢れ、何ともいえない雰囲気を醸し出している。何だかこう書くと評論家みたいだが、まるでシューベルト自身が微笑んでいるかのような温かみ、緻密なアンサンブル。私の愛聴盤のひとつなのです。よく弦楽四重奏は玄人向きなどと言いますが、弦楽器の音色が好き!というあなた、でも曲が多くて演奏者も色々で、どれを選んでいいのかさっぱり分からないという方は、とりあえず、このCDを聴いてみてはいかがでしょう?
ヴァイオリン2、ヴィオラ1、チェロ1で構成される弦楽四重奏は、シンプルかつ完成されたジャンルと言われ、楽曲も豊富。弦楽器奏者にとって、たったの4人集まれば無限大(?)に表現しうる四重奏はとても奥深く、魅力的なのです。
このシューベルトの代表作とも言えるこの作品、タイトルからしてロマンチックで、哀しいような。実は第2楽章で、シューベルト自身の歌曲「死と乙女」の旋律が使われているところから、名付けられました。歌曲の歌詞は擬人化された"死"が若い娘に語りかけるという寓意的なもの。そうそう、ウィーン・ロマン派を代表する作曲家、マーラーがこの曲を弦楽合奏用に編曲していて、こちらを聴いてもまた違った楽しみ方ができますね。
この曲に纏わる余談を。私事で恐縮ですが、ヨーロッパ留学時「追っかけ」をしていた、某弦楽四重奏団のスイスの小さな街のサロンコンサートでのこと。無料コンサートだった為か、小さな会場は超満員。椅子は満席で私は前方演奏者そばの窓辺の段差に腰掛けました。他にもそんなお客さんでいっぱい。挙句床に座る人もいて・・・客層は、じいちゃん、ばあちゃん、年配者が大半。「酸欠になっちゃうかも・・・」「休憩時間はきっと大混乱ね・・・」との不安をよそに演奏が始まり、そのまま休憩ナシでプログラム最後の「死と乙女」の演奏に突入、会場はもう大変な熱気ムンムン。その中での熱演に心なしか頭もぼーっ・・・30分経って、もうすぐ終りだ!と思った瞬間、「う〜ん」という唸り声と共に、バタンっと誰か倒れる音が・・・演奏終了。病人は部屋の外へ運び出され、会場は騒ぎもなく落ち着いた空気。しばらくして、譜面台と楽譜を片付けに戻ってきた第一ヴァイオリン奏者のW氏と握手、興奮気味に「素晴らしかったです」すると、いつもおかしな事ばかり言う彼は「いやあ、熱かったねー」そしてニヤリと一言、「ばあちゃんの死だ〜」えっ!さっきの人は死んでしまったの?いいえ、どうぞご安心を。本当に酸欠になってしまったのね、別室で休んでいらっしゃいました。帰り際、そのばあちゃんを指して「乙女〜」と喜んでいた彼。ああ、演奏は素晴らしいけれど、何て人なの?!忘れられない思い出です。
■ メンデルスゾーン・ヴァイオリンソナタ ヘ短調/
ヘ長調(ドイツ・グラムフォン F35G 20137)
演奏:シュロモ・ミンツ(ヴァイオリン) ポール・オストロフスキー(ピアノ)
紹介:神戸市混声合唱団 木下裕子(ソプラノ)
私がミンツを知ったのは、今からおよそ20年ほど前、クライスラーの小品が収められた1枚のLPレコードだった。
テクニックを駆使して、超絶技巧の難曲に取り組む若いアーティストが多い中、彼はそれら小品の隅々にまで暖かい眼差しを向け、その楽しみを思う存分に味あわせてくれた。彼の音色と音楽に夢中になって、何枚かのCDを聞き過ごした後、このCDに出会った。
メンデルスゾーンの華やかな作品を思い描いていた私は、一瞬、心臓を素手で掴れたような衝撃を、今でも鮮明に覚えている。
1曲目のヘ短調 作品4 この世の全ての悲しみや憂いを内に秘めたような、震える弦の囁き。骨髄にも響くようなピアノの音色。
一見、たどたどしいとも思える弦とピアノの掛け合いは、虚空に向かって放つ人間の溜め息にも聴こえる。
秋冷の頃、外気に冷やされた手足を抱いて、ボソッと膝を抱え込むような…。それでいて、その冷たさをいつまでも味わっていたいような…。誰もが忘れ去っていくような不思議な感覚を、ミンツとオストロフスキーのアンサンブルは愛情込めて謳いあげている。
2曲目のへ長調 これは前曲とは打って変わり躍動感溢れ、協奏曲の様な趣きさえ呈している。しかし、Adadioの部分は深い憂いを帯び、哀切な想いが大きく膨らみ流れ出るような、甘く切ない旋律に彩られている。ここにも、ゆったりとした旋律の中に、ミンツの愛情の細やかさが際立って現れる。終曲は、まるで大編成の室内楽を聞いているような、そんな満足感さえ与えて一気にクライマックスへと駆け上っていく。ここにも、二人の丁々発止ともいえる、絶妙のアンサンブルが冴え渡り、息を呑むような結末を披露してくれる。
悲しみにどっぷりと浸りたいとき、そして、その悲しみを玩んでんいたい時に…。こんな音楽をお供にしてみては?